「まさに」の用法(流行語候補?)
今回のテーマは、「まさに」という副詞の使い方です。
ここのところ、日本のニュースやインターネット上など、「まさに」をさまざまなところで見聞きするようになりましたよね。個人的には、2020年の流行語大賞も狙えるのではないかと思っています。
この記事では、「まさに」が好きだ嫌いだとかではなく、本来の使い方をあらためて考察したいと思っています。私は正直「まさに」をあまり使ったことがなく、使い方に自信がありません。
皆さんはいかがですか。「まさに」の用法をどのように説明なさいますか。
私なりに「まさに」をまとめてみますので、皆さんが自信をもってこの言葉を使うためにも少し役立てていただきたいと思っています。
私は日本語が大好きで、日本語教師をしたり翻訳をしたりしているので、英語、中国語、タイ語に訳す場合の訳案についても、少し書いてみたいと思います。
「まさに」は大きく分けると、3つの使い方
最近使われている「まさに」の用法は、ざっくり3種類になると思われます。
辞書を調べると5種類ほどあるいはそれ以上多くの説明を載せていることもあるかと思いますが、私の日本語感覚に基づいて分けると、「まさに」の用法は以下の3種類です。
「まさに」(副詞)
①ある事柄が成り立つことが動かしがたいさま。
②一つの事物をそれ以外にはないものとして特に取りたてるさま。
③もう少しのところで物事が起こるさま。
そして①と②の「まさに」の用法が、2020年現在流行している種類だと思われます。
とはいえ、ニュース番組のアナウンサーが③の「まさに」の用法を使っているのも、よく耳にします。
どうでしょうか。イメージ湧きますか。皆さんはどの用法をよく使いますか。
次に、詳しい例文を作って、意味を考察してみましょう。
「これはまさに私の財布だ」
「まさに」用法①をまず考察します。
「ある事柄が成り立つことが動かしがたいさま」です。
言い換えるなら、「確実に」、「疑いもなく」「まさしく」と言った感じですね。
外国語に訳す例を考えましょう。
これはまさに私の財布だ。
This is undoubtedly my wallet.
这个钱包确实是我的。
นี่คือกระเป๋าเงินของฉันอย่างไม่ต้องสงสัย
タイ語翻訳はいまいちな感じですが、それ以外の言語は日本語と同じくらいすっきり表現できそうです。
この用法における日本語の「まさに」は、強調する言葉の直前で使うならば、聞き手もすっきりと正しい意味で聞き取りやすいと思います。
ほかの人の財布ではなく、「私の財布」と強調したいので、「まさに」を「私の」の直前につけますね。
「彼こそがまさに適任だ」
「まさに」用法②にうつります。
「一つの事物をそれ以外にはないものとして特に取りたてるさま」です。
言い換えるなら、「ぴったり」、「ちょうど」と言った感じですね。文脈によっては「こそ」だけで十分なこともあると思います。
外国語に訳す例を考えましょう。
彼こそがまさに適任だ。
He is just(exactly) the right man for job.
只有他才是称职的人。
เขานี่แหล่ะเป็นผู้ชายที่เหมาะสมกับงาน
どの言語もすっきり訳せます。「ほかにはいない」、「特別だ」、というアイデアを思い浮かべればいろいろな訳案が生まれますので、文意を読み取ることさえできれば誤訳になりにくい種類の用法ですね。
この用法における日本語の「まさに」は、強調する言葉の直後で使うことで、強調したい言葉を聞き手に正確に伝えられると思います。
逆に言うと、文頭に持ってくると少し意味がぼやけます。「まさに、彼が適任で、……」みたいに使うと、強調の効果が少し薄れてしまいますね。
「まさに出かける直前だった」
「まさに」用法③は、「もう少しのところで物事が起こるさま」です。
これはニュース番組でアナウンサーが最近よく使っています。
言い換えるなら、「ちょうど今」とできるかもしれません。
「まさに」を使えば緊張感や緊迫感を強く伝えることができるのだと思います。
外国語に訳す例を考えましょう。
まさに出かける直前だった。
I was just going to leave.
正好要出门。
ฉันกำลังจะออกจากบ้าน
これまた、外国語に訳しても、それほど長い訳文にはなりません。
この用法における日本語の「まさに」は、強調する言葉(動作)の直前で使い、「する直前」とか「しようとしている」と言った言葉で受け止めると良いと思います。
まとめ
さて、ここまでが、「まさに」の日本語用法のまとめです。
いかがでしょうか。
皆さんが使っている「まさに」と一緒ですか。
日本語という言語は、どんどん意味が変化しており、使い方も意味もいつも確かめていないと、世間と感覚がずれていくものですね。
私は、NHK放送文化研究所様の「ことばの研究」サイトや、文化庁様の「国語に関する世論調査」などをチェックして、日本語教育や日本語翻訳がずれすぎないように気をつけたいと思っています。
今回は「まさに」という副詞の用法を特集し、久しぶりに日本語教師らしく日本語の話をしてみました。
長い文章読んでくださり、ありがとうございました(^^)/